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今回の舞台となる山梨県富士川町は、地元の人いわく「(観光名所が)何もない場所」。
そんな富士川町に誕生したのが、バウムクーヘンショップ〈BAUM ARURA(バウム アルラ)〉。
開業までに辿ってきた軌跡を、道の駅 富士川 事業部長Fさんに尋ねてみました。
目次
数々の壁を越え 小売りだけでなく自ら価値の創造へ
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2021年に全線開通した、静岡県と長野県を結ぶ中部横断自動車道からも、一般道からも利用できるハイウェイオアシス〈道の駅 富士川〉。
近隣の市町で果樹が豊富に収穫できることから、地域の新鮮な農産物がずらりと並び、最近では県外から訪れる人も増えている。
2014年の開業以来、週末には趣向を凝らした様々なイベントを催し続けたことで、地元や近隣の市町からの利用者数は年々右肩上がり。
Fさん―順調に売り上げを伸ばす中で社内では、それまでの観光業・小売業だけの事業から脱却し、会社として自ら価値を創造し、利益を生む、食品製造の新規事業を立ち上げる構想が浮かび上がりました―
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富士川町らしさが表現できる新たな名物や土産品を創出したい、と(株)富士川とともに道の駅 富士川を運営している同町は、農産物加工所の増築・改修における入札を実施。
数社と競合した結果、不二商会が提案した、富士川町の豊かなめぐみを活用したバウムクーヘンビジネスの企画が通り、2020年初め頃から本格的にプロジェクトが始まった。
その後まもなく、未曾有のパンデミックが起こり、プロジェクトの推進そのものを再考せざるをえない状況に。
Fさん―結果的にはプロジェクトを継続することになりましたが、当道の駅が第三セクターであるがゆえに、行政や社外取締役への説明とコンセンサスを得ることに時間がかかったり、補助金を利用する事業でもあったため、事前審査資料の作成など煩雑な事務作業があったり、とやらなければならないことが山積みで、ずっと走り回っていました。
モチベーションの維持も大変でしたが、同志として、不二商会の藤波社長や営業担当Mさんも一丸となって、一つ一つの課題を乗り越えていったことがとても印象に残っています―
プロジェクトの始まりから店舗のオープンまでにかかった年月は、実に約2年半。
その間にさまざまな事件や壁に直面し、これまでの不二商会の実績の中でも類を見ないほど長い歳月が費やされた。
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課題が生まれるたび、解決に向けて両社が力を合わせて取り組み、やっとの思いで迎えた2022年4月21日、オープン初日。
店を訪れたゲストから、
「地元にバウムクーヘンショップができてうれしい」
「楽しみに待っていた」
などの温かい言葉を受け取ったFさんは、それまでの努力が報われたような気がして感慨深かったと話す。
不二商会の営業担当Mは同プロジェクトをこう振り返る。
―相手が民間企業であれば、ある程度フレキシブルに進められることも、行政には厳格な予算管理とルールがあるため、一筋縄ではいかないもどかしさはありました。
ただ、Fさんをはじめ、(株)富士川の皆さんと諦めずに闘ったからこそ、〈BAUM ARURA〉のオープン日を迎えることができたと思います。
自治体が関わる事業を進行するには、自身の体力と精神力だけではなく、われわれとお客さまとの強い結束力も必要だということが、今回得た学びです。
今後も行政を交えた案件はあるでしょうし、次に生きる貴重な経験でした―
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富士川町長や町議会議員らによるテープカットも
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地域の魅力あふれる商品の数々…製菓未経験者がバウムクーヘン職人に
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ここらの地域のお土産といえば、桔梗信玄餅を思い浮かべる人も多いだろうが、この度の〈BAUM ARURA〉のオープンにより、道の駅 富士川のお土産として多彩なバウムクーヘンが仲間入り。
富士川町産の米を自家製紛した米粉で作るプレーンのソフトタイプ・ハードタイプとゆずのハードタイプのほか、同店でしか入手できない一押し商品が、不二商会の開発チームによる傑作、ふわとろバウムクーヘンシリーズの一つ、〈ふわとろあるら 穂積のゆず〉。
通常は全卵のところ、ベースをメレンゲに置き換えることでスフレのように生地が口の中でほどけ、まさに新感覚。
古くからこの地域で栽培されている〈穂積のゆず〉の爽やかな香りも口いっぱいに広がり、富士川の風土も感じられる。
同店でこれらのバウムクーヘンを焼く職人は、オープニングスタッフとして採用された女性3人。
不二商会では新規オープンする店舗のスタッフを招き、当社で3~4日、機器搬入後の実際の店舗で3~4日と、約7日間の焼成トレーニング研修を行っているが、ほとんどがバウムクーヘンを焼いたことがない人だ。
ARURAの女性スタッフらも例に漏れず、前職が事務職だったり、居酒屋の店長だったりと異業種から転職した人ばかりだった。
Fさん―全員が製菓未経験者かつ、面識のない状態で始まった研修は、果たしてうまくいくだろうかという不安もありましたが、日がたつにつれ、お互いの理解も深まっていきました。
今では問題点や課題を共有し合い、時には不二商会の担当営業Mさんにアドバイスを求め、まだまだ成長過程ではありますが、一丸となって一歩ずつ前進していることに事業責任者として安心と心強さを感じています―
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職人がパフォーマーとなり、ゲストの目を喜ばせる
〈BAUM ARURA〉は事の始まりこそ前途多難ではあったが、イートインで味わえる焼きたての〈チーズインあるら 穂積のゆず〉や新食感の〈ふわとろあるら 穂積のゆず〉は売り切れ続出の大ヒット商品。
着実にファンも増えてきている。
現在抱えている課題は、目標の売上額を達成するための生産力が不足していること。
Fさん―ARURAは無事にオープンしましたが、製造と販売を並行しなければならなくなって初めて、不二商会の藤波社長が何度もお話ししてくださった
「売れる喜びの裏には、作る苦しみがある」
という言葉の意味が痛いほどよく分かるようになりました。
生産力の不足は単純に人員を確保して解決するのではなく、まずは私たちの経験値と技術レベルを上げる必要があると考えています―
これに対し、不二商会の営業担当Mは
―オープン前の計画と実際の売り上げの照らし合わせや、製造工程でボトルネックになっている箇所の精査など、日々の分析も大切です。
それを踏まえ、今後の製造計画を見直したり、新たな道具を開発したりと、メーカーとしてわれわれができるサポートをしていきたいと思います―
PHOTO GALLERY
MACHINE
今回納品した機器はコチラ⇒不二商会 三種の神器
新型のバウムクーヘンオーブン〈フレイヤ〉は、従来機の約半分の時間で約φ120mm・全長約60cmのソフトバウムクーヘンを6本焼成することができる。
職人が焼きに集中できる〈生地供給ポンプ〉と、40mm間隔で一気にバウムクーヘンをカットする〈一斉切りスライサー〉を合わせることで人時生産性が向上。
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SPACE DESIGN
全体的にやわらかな雰囲気を演出する、アールを描いた設計。
天井の中央に設けられた円形のモニュメントは“逆さ富士”をイメージ。
円が重なっていることから、バウムクーヘンも連想させる。
ブランド名〈BAUM ARURA(アルラ)〉の由来は甲州弁の「~あるら」。
「道の駅 富士川に来れば、こんなにおいしいバウムクーヘンがあるら!」
という意味を込め、同プロジェクトのクリエイティブ班が提案したもの。
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PACKAGE
パッケージのデザインを手がけたのは、ユニークな動物を描く人気イラストレーター、寺田順三氏。
富士川町にゆかりのある生き物や植物、風景が個性的なテイストで描かれ、思わず手に取りたくなる愛らしさも兼ね備えている。
バウムの種類ごとに絵柄が異なり、全種類そろえずにはいられない。
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BRAND&PRODUCT
ふわとろシリーズのこの口あたりと味わいを実現させるまでにかかった月日は半年以上。
最大の難点は、焼成してから時間が経つと、生地が萎むこと。
時間がたってもふんわり感としっとり感を維持できるよう、不二商会の開発チームが配合や焼き方を細かく調整しながら完成させた逸品。
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TRAINING
不二商会の社屋と実際の店舗で焼成トレーニング研修を実施。
製菓初心者でも質の高い商品を焼けるように、丁寧に指導。
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基本情報
ADDRESS/山梨県南巨摩郡富士川町青柳町1655-3(道の駅 富士川併設)
Instagram/@a_rur_a
※2022年9月9日時点の情報です。