
市内の猿投地方は「猿投の桃」の産地であり、県内一のモモの生産量を誇る。
そんな猿投地方にある〈はっぴー農産〉は、モモをはじめコメやトウモロコシを栽培し、直売所も持つ農園。
「自社栽培の作物をいろんな人に食べてもらいたい」という思いの背景には、「地域の農地を荒らさず守り続ける」という強い意志もあり、バウムクーヘン専門店〈はっぴーバウム〉を2023年9月28日にオープンした。
目次
“豊”かな“田”んぼをいつまでも
「はっぴー農産」はK社長の祖父、初代がモモ農家からスタートした。
その後、コメとトウモロコシも栽培し始め、今では300人以上の地主から84ha(84万平米)の農地を預って作物をつくり、直売所とECで販売している。
全国的に見ると、農家の高齢化やコメの消費量の減少、政府の減反政策の影響により、耕作放棄地(※)の増加が社会問題に発展し、この先、農家不足も耕作放棄地や荒廃農地の増加もますます加速することが予想されている。
※=以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を栽培せず、この数年の間に再び栽培する意思のない土地

K社長「私たち農業法人が、地主さんからお預かりしている“豊”かな“田”んぼを荒廃させることなく維持するには『地産地消』、つまり、地域で生産された農作物やその加工物を地域の消費者が購入することで、その農家と農地を支えて守る、名づけて『はっぴーサイクル』の実現が不可欠でした」
モモもトウモロコシも口コミで評判が広がり、直売所はある程度認知されていたが、さらに多くのゲストに自社栽培のコメ・モモ・トウモロコシを手に取ってもらうことで農地はより維持しやすくなる、と考えたK社長は作物の生産・加工・販売を一貫して行う「6次産業化」を検討し始めた。
米粉のパンや生ケーキは、作ってその日のうちに消費しきらなければならないものがほとんどだが、バウムクーヘンは冷凍保存・計画生産ができてロスも少なく、知らない人もほぼいないメジャーなスイーツ。
K社長は製菓の知識も開業のノウハウもなかったため、“スイーツ繁盛店のトータルプロデュース”に惹かれてバウムクーヘンオーブンメーカーの不二商会に問い合わせしたのだが…
お任せできる安心感
K社長「バウムクーヘン専門店を開業した今ではその意味も分かりますが、藤波社長からは初めに『相当な覚悟がないと、スイーツ業界への異業種参入はおすすめできない』と言われ、バウムクーヘンビジネスは一度諦めたんです。
ただ、米粉スイーツのお店はチャレンジしたかったので、一度他社さんと事業再構築補助金を申請しましたが、それも審査を通らなくて…。
改めて『6次産業化して消費者に伝えたいメッセージって何だろう?』と自社の強みや事業ビジョンを見直したところ、『豊田で実った「おいしさ」を地域の人に届けたい。そして、この豊かな田んぼをこの先も荒らすことなく守り続けたい』という思いが自分の中で膨らんでいることに気づきました」
そこで、K社長は2020年のFOOMA JAPANで、米粉の製粉機メーカーから不二商会を紹介してもらい、事業再構築補助金にも再挑戦。
無事に通過して、不二商会と建築設計&デザイン企業の協業チーム「FUJI DESIGN SYSTEMA」のバウムクーヘンビジネスのトータルプロデュースにより、2023年9月28日のグランドオープンを迎えた。


K社長は、最初は本当にバウムクーヘン専門店が完成するか不安だったと話す。
K社長「不二商会さんは私たちのように6次産業化したいと考えている農家のバウムクーヘンビジネスプロデュースの経験も実績も豊富で、安心して頼ることができましたし、ブランディングチームの皆さんもこちらの思いを丁寧に引き出してコンセプトなどに反映してくださったので、『はっぴーバウム』は全体的に大変気に入っています」
2023年にオープンしてから…


2023年9月28日は、グランドオープンを心待ちにしていた「はっぴー農産」のファンや、沿道を通りかかった新規客で行列ができるにぎわいぶり。
K社長「バウムクーヘンビジネスはお店をオープンしてからが大変で、ブランドの周知をはじめ、ゲストを飽きさせない商品展開、お店で働くスタッフの育成など、常に考えなくてはならないことだらけですが、私たちが提唱している『しあわせ循環バウム』により、この豊かな田んぼがこの先も永く続くよう、自社と豊田産の作物を使用したバウムクーヘンの商品開発に尽力します」!
夏は「はっぴー農産」のモモとトウモロコシのシーズン。
直売所を訪れるゲストが、はっぴーバウムでもショッピングすることで、盆前まではお中元やギフト需要が伸び、今夏の売上は前年比で20%増と言う。
夏以外の季節は豊田市産の抹茶やイチゴ、ブルーベリーなど、同地域でK社長と志を同じくする農家と連携し、地元でとれる素材を使用した多彩な季節限定商品を展開。
地域ぐるみで豊田の農地を守っている。
担当営業Sより
豊田市にある「はっぴーバウム」は、まるで森の中に現れた小さなケーキ工房のような、温かみと優しさに満ちたお店です。
その名の通り、訪れるだけで心がほぐれるような雰囲気が広がっており、地元の方々や観光客にも愛されています。
オーナーのK社長は本業の農業を営みながらバウムの製造メンバーと関わりながら取り仕切っています。オープンしてから初めに苦労したのは人の問題だったとK社長は語っていました。
今回オープニング時には幸いにもバウムの製造経験者の方がいらっしゃいましたが、数ヶ月で退社することになり、再度一からスタッフを募集され、採用された方に私が現地でバウムクーヘン焼成の再指導を行ったこともありました。今はスタッフも定着し安定した商品を提供されています。
安定した商品を提供することはもちろんですが、今回のようにスタッフが入れ替わっても製造指導をさせていただき、オープン後もしっかりとフォローをさせていただくのが我々の使命です。
はっぴーばうむ様は現在オープンしてから2025年9月で丸2年になります。
元々経営されている直売店に来られるお客さまが手土産にバウムショップの方に足を運んでくれることも多いそうです。
特に、自社でとれる果実を使ったバウムクーヘンの詰め合わせの売れ行きが好調だそうで、今後も着実にお中元やお歳暮などのギフトの方でも売上を伸ばされるかと思われますし、今回納品したバウムクーヘンオーブンも無人焼成オプションに対応した機種なのでK社長と相談しながらご提案させていただきたく思います。
PHOTO GALLERY
不二商会とデザイン会社の協働ユニット〈フジデザインシステマ〉は“繁盛”をご提案し、最先端のオンリーワンバウムクーヘンブランドを構築。
オーナーやそこで働くスタッフの“本物の思い”が詰まったバウムクーヘンのレシピ開発や、動線重視の厨房・ホールの基本設計、目を引くパッケージのデザインとディスプレー、バウムクーヘンの焼成指導などトータルプロデュースし、製菓と無縁の企業の開業もサポートしている。
MACHINE

バウムクーヘンオーブンは標準機比で最大半分の時間で焼成できる「フレイヤ」を納品。
麺棒を取り付けてから焼き上がったバウムを取り出すまでの焼成工程を自動化した「無人焼成システム」を後付けすることもでき、バウムクーヘン焼成の省人化が可能な機種。
フレイヤをベースに、無人焼成システムを搭載した「ベストフレイヤ」も同じく、オペレーターがバウムクーヘンオーブンの前に拘束される時間を極限まで短縮することで、オンリーワンの新商品開発や、ブランド力を向上させる人材育成に力を注ぐことができる。
SPACE DESIGN


駐車場からも店内からもバウムクーヘンの焼成シーンを見ることができる設計。
「木のケーキ」と和訳されるバウムクーヘンのショップ内の壁・梁(はり)・天井・調度には、豊田市産の木材を採用。温かみや多幸感あふれる雰囲気を演出している。
BRAND&PRODUCT

全ての商品に自社栽培のコメ「ミズホチカラ」の玄米“生米粉”を使用し、グルテンフリーバウムを提供している。
生米粉とはお米に水分を含ませ、でんぷん質を破壊しないように気流粉砕した、しっとり&きめ細かな米粉のことで、自家製紛できてブランドの独自性も表現しやすいのが魅力。
K社長いわく、「ミズホチカラ」は炊いてご飯として食べるより、米粉にして焼き菓子にすることでよりおいしさが引き立つ、とのこと。
ふっくらと焼き上がり、ふんわり軽い口あたりながらしっとり感もあり、玄米の香ばしい風味も感じられるのが特徴。
TRAINING
不二商会では、製菓未経験の異業種の人でもバウムクーヘンが焼けるよう、不二商会のショールームと、機器や設備が整った現地で5~10日間(※)の焼成研修を実施。
※日数は店舗で販売するアイテム数によって異なる
基本情報
ADDRESS/愛知県豊田市四郷町西山76-19
WEB/https://www.happy-baum.com/
Instagram/@happy.baum
※本記事は2025年8月25日時点の情報